遠山景元という名前を聞いてパッと誰か想像できる人は少ないでしょう。
この人がドラマで大人気を博した「遠山の金さん」です。
ストーリーの概略を説明しておくと、江戸時代後期の北町奉行の遠山は普段は街中で身分を隠し「遊び人の金さん」として庶民生活を満喫していますが、何か事件が起こると持ち前の聡明さと腕っ節の強さを駆使して事件を解決。奉行所に連れてこられた犯人が悪事について認めようとしないと、着物から肩を突き出し、鮮やかな桜吹雪の刺青を見せ付けて一件落着…という勧善懲悪のドラマです。
普段は遊び人、そして肩の刺青…という奇抜なスタイルが人気になったようです。
その奇抜さゆえにこの人が実在の人物だと思わなかった人も多いのかもしれません。しかしこの人実在していましたが…余り「実在したかどうか」は「遠山の金さん」には関係ありません。
まず、この人は実在の人物とドラマでの姿が余りにもかけ離れすぎています。
例えば他の時代劇でも完全な設定がある物語は少ないですが、金さんの場合は更に少ない。
金さんについての記述は最初明治時代に肩の辺りに女の生首の刺青がある男がいたという事が記述された文章が発表されました。その人が遠山であり、後に金さんになります。ドラマでは何故に桜吹雪になったのかは判りませんが、どちらにせよ事実ではないようです。
それどころか遠山は庶民の贅沢禁止について様々に働きかけていた人物で、その活動の一環として「刺青の禁止」を訴えていた人物も彼です。
ということで、庶民の中に溶け込んで、さらには自分も刺青をしている可能性はかなり低いようで、後の研究でも彼が刺青をしていたというのはどうやら間違いらしいといわれています。
ただ、全てが無から生じた申そうというわけではなく、刺青をしていた人物というのが確かに居たような記述は残っています。それが遠山の前任者だった人物です。
彼の腕に何かの刺青があったようです。その人物の話が遠山とごっちゃ混ぜになった結果が金さんの桜吹雪だったのかもしれません。
そんな彼がどうして後世で注目を集めるようになったのかというと、大岡越前の忠相と同様に、遠山も相当なエリート官僚でした。ずっと江戸から出る事無く出世を続けています。普通の官僚は各地を渡り歩いて徐々に出世していくのに、その意味で遠山は異色の存在であったといえるでしょう。
そして、ある程度の形が残る仕事もしているので注目される要素は充分にあったという事になります。それが更に前任者の刺青と混同されていったのが、「遠山の金さん」だったのかもしれません。真偽は遠山のみぞ知る、ですが。
ちなみに前項で大した根拠もなく庶民生活に溶け込むことはありえないと述べましたが、コレは彼の職業であれば遠山であろうが大岡忠相であろうが、その他のだれであってもその可能性は無いのです。
彼等は現在であれば四、五人くらいの人数で処理すべき職務を一人で片付けなければなりませんでした。代表的な職務だけを挙げても、裁判官と知事職を兼任している事になります。それ以外にも仕事は沢山ありますし、裁判官としての職務についても現在の裁判官とは比べ物にならないほどの数を処理しなくてはならない。
信じられないことかもしれませんが、彼等の職業というのは、途中で過労死してしまうケースが多数発生しています。文字通り死ぬほど忙しかったわけです。それを遊び人を装って町をぶらつく暇がある…というのは、物理的に不可能です。
ちなみに遠山の場合は幸運な方できちんと天寿を全うしたといえる年齢まで生きています。
しかし、遠山という男が江戸時代後期の傾きかけていた国を立て直す為に、様々な規制を打ち出したエリート官僚であるということは間違いありません。その努力は形は違えども、きちんと英雄譚となって後世に語り継がれるものになったのですから。 |